暴力団組長の長野修一は二代目山広組の若頭・後藤栄治をどう見たのだろうか。
長野修一は後藤栄治について、木村勝美の著書『竹中四代目暗殺事件のヒットマン・長野修一』に収録されている長野自身による獄中書簡の中でふれている。
この記事の主要な登場人物
長野修一
後藤栄治
「彼の不評を聞くたびに耳をふさぎたくなる」
長野修一と後藤栄治はともに山広組に所属しており、かつ後藤は若頭なのだから、組織の中の役職では後藤の方が上ということになる。
しかし、長野と後藤は相反する性格でそのせいで逆にウマが合ったという。
長野修一は獄中書簡の中で、後藤栄治についてこのようなことを述べている。
「私は、組内でも彼とは特別に仲良しで、よくふたりで食事に行ったりもしてました。だから、お互いの欠点や長所も、よく知りつくした間柄です。
どちらかといったら私はチャランポランで、もめごとがあれば全面に立つような無鉄砲な男です。でも、後藤さんは、何事にも利口に立ち回り、シノギもうまいです。このように、性格が正反対のふたりやから、うまく付き合いができたのかもしれんです。
だが、彼のその慎重な行動をすることが、時々人に誤解を与えて批判されることがあります。塀の中にいる私の元に届く彼への不評はあんまり良い話はなく、その話を聞くたびに、私は耳をふさぐ仕草を繰り返します。
そんな彼も、いろいろとあったけど、いまは新天地を見つけ、心新たに頑張っているようなことを噂で聞いてます。だから、周りにいる人たちも、いまはそっとしておいて欲しい。これが私の希望です。
引用:木村勝美『竹中四代目暗殺事件のヒットマン・長野修一~獄中書簡356通全公開~』(かや書房、2020年)21頁
後藤栄治は、今回引用した『竹中四代目暗殺事件のヒットマン・長野修一』と同じ著者・木村勝美による『極道の品格 山口組四代目暗殺の首謀者 石川裕雄の闘い』でも、横からしゃしゃり出て暗殺の手柄を横取りし、そのわりに肝心な時にはその場から立ち去る、という風にあまりいい書かれ方はしていない。
にも関わらず、そうした慎重派の後藤栄治と暗殺の最前線に立った長野修一が仲が良く、しかも長野が後藤をかばうような言動をするという点で、人間関係の機微がうかがえて興味深い。
『竹中四代目暗殺事件のヒットマン・長野修一 ~獄中書簡356通全公開~』(木村勝美)の読みどころ
先ほどの引用文は木村勝美『竹中四代目暗殺事件のヒットマン・長野修一~獄中書簡356通全公開~』からのものである。
木村勝美の『竹中四代目暗殺事件のヒットマン・長野修一』は、その副題の「獄中書簡356通全公開」の通り、大部分は長野から知人の「S」氏宛ての獄中書簡をそのまま抜粋したもので構成されている。
木村勝美は80歳、長野修一は75歳であり、互いに高齢者同士のやり取りとなった。
マスコミ嫌いの長野だったが、木村の「将来若いジャーナリストの執筆資料にしたい」という言葉に惹かれて取材を引き受けるに至った。しかし2人の面会の許可は下りなかったという。
それもあってか、木村勝美は将来の執筆材料としての資料性を重視したとしており、ひたすら長野の獄中書簡の抜粋が続く形式になっている。
その大部分は、長野の獄中生活やその時々の思いなど、淡々とした言葉が綴られるものである。
個人的に面白かったことの一つは、どうしても暇を持て余す獄中生活の楽しみとしての読書で、様々な本が出てくることである。
出てくる書名を一つずつ読んで、それらをすべて書き起こそうかと考えていたが、あまりにも膨大な量の本が出てくるので途中で諦めてしまったほどである。
暴力団と右翼団体は親和性が高いが、長野が獄中で読む雑誌として保守系の「WILL」「SAPIO」「諸君!」の名前などが出てくるのはやはりという気がする。
また長野が「ネットに自分の名前が出てるらしい。どうせろくなことが書かれてないのだからどうにかならないか」と相談するところなど、管理人はネットに書いている者の一人として、妙な気持ちにさせられた。
あとがきでは長野修一が獄中で、山本広宅にロケット弾を撃ち込んで服役していた竹中組組員の安東美樹に襲われた事件の顛末が簡単に書かれている。
それがために刑務所内のイベントが中止になると通告されたために、服役中の各組織の組員が集まって安東が今後手を出さないように約束させられたのだという。
そこでの記述によれば、安東美樹は実話誌が報じる英雄像と微妙に異なり、刑務所内では浮いた存在だったのだとか。