ヘミングウェイの見たガートルード・スタイン「安直なレッテル貼りなどクソくらえ」

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小説家のヘミングウェイは美術収集家のガートルード・スタインをどう見たのだろうか。

ヘミングウェイはガートルード・スタインについて、自身の短編小説集『移動祝祭日』で言及している。

これから『移動祝祭日』(新潮文庫)収録の短編小説「ユヌ・ジェネラシオン・ペルデュ」を引用するので、これから『移動祝祭日』を読もうという人はネタバレに注意。

「ロスト・ジェネレーションなんて彼女の言い草など、くそくらえ」

ヘミングウェイの短編集『移動祝祭日』は、ノンフィクション要素の強い短編集で、ヘミングウェイの実質的な遺作とされている。

その『移動祝祭日』(新潮文庫)でヘミングウェイは、当時パリにいてガートルード・スタインに「ロスト・ジェネレーション」と呼ばれたことについてこのように述べている。

私はミス・スタインや、シャーウッド・アンダスンや、自己中心癖や、精神的怠惰対自己鍛錬のことを思い、人を自堕落な世代(ロスト・ジェネレーション)と呼ぶなんて何様のつもりなんだ、と思ったりした。

引用:ヘミングウェイ『移動祝祭日』(新潮文庫、平成21年)50頁

シャーウッド・アンダーソン(小説家)‥‥Wikipedia

しかしこうした鬱々とした気持ちは、ネイ元帥の銅像を眺めることで徐々に変わり始める。

しばらくビールを飲みつつ銅像を眺め、あのモスクワからの撤退に際して、ナポレオンがコランクールと一緒に馬車で逃げ出した後も、ネイ元帥が何日間も後衛部隊を率いて奮戦したことを思い出しているうちに、ミス・スタインがどんなに心の温かな、情愛に満ちた友人だったか、あのアポリネールと彼の死に際のことを、どんなに美しく語ってくれたかをあらためて思った。

(中略)

そんなことを思い返しているうちに、よし、自分はこれからも彼女のために尽くし、彼女の立派な仕事が高い評価を得られるように最善を尽くそう、と誓った。

だから神よ、私とマイク・ネイを助けたまえ。

でも、ロスト・ジェネレーションなんて彼女の言い草など、くそくらえ。薄汚い、安直なレッテル貼りなどくそくらえだ。

引用:ヘミングウェイ『移動祝祭日』(新潮文庫、平成21年)50、51頁

ミシェル・ネイ元帥(軍人)‥‥Wikipedia
ナポレオン(フランス皇帝)‥‥Wikipedia
ド・コランクール(軍人)‥‥Wikipedia
アポリネール(詩人)‥‥Wikipedia

『日はまた昇る』を読むと、その冒頭に掲げられたガートルード・スタインの言葉はヘミングウェイ自身の同意や共感を持って掲げられたかのように見える。

ところが今引用した通り、実際にはそうではないらしく、これは『日はまた昇る』を読んだ多くの読者にとって意外に思えるのではないだろうか。

ヘミングウェイ『移動祝祭日』の見どころ・読みどころ

以上の引用文はヘミングウェイの短編小説集『移動祝祭日』からのものである。

ヘミングウェイの『移動祝祭日』は、彼の実質的遺作とされている。

管理人はヘミングウェイの『日はまた昇る』などの諸作品を愛読していたが、かなり以前に新潮文庫から『移動祝祭日』が刊行されていたことを知らなかった。

そのため、新訳で新たに『移動祝祭日』が刊行されて初めてその存在を知り、既に没後だいぶ経っていたのに、まさか新たなヘミングウェイの作品が読めるなど思っていなかったので興奮したのを覚えている。

その『移動祝祭日』の読みどころとしては、同作品のノンフィクション要素の強さから、おそらくヘミングウェイの諸作品の中でもっとも彼の肉声に近い言葉を読めるということ、加えて、同作には20編もの短編が収録されているので、ちょっとしたお得感があるということだろうか。

しかしやはり『移動祝祭日』の一番の目玉は、この記事でも取り上げたように、何といっても『日はまた昇る』冒頭の伝説的名文句「あなたがたは失われた世代です」という言葉と、その言葉を吐いたガートルード・スタインに関する印象をヘミングウェイが率直に語っていることだろう。

また知ってる人にとっては意外な事実ではないのかもしれないが、実はガートルード・スタインはレズビアンだったらしい。

そのため、例えば同作に収録の「実に奇妙な結末」では、スタインの行為中の声をヘミングウェイが部屋のドアの前で偶然立ち聞きしてしまう、というやや刺激の強い描写も出てくる。

この記事に登場する主要人物

アーネスト・ヘミングウェイ

アーネスト・ヘミングウェイ(小説家)‥‥Wikipedia

ガートルード・スタイン

ガートルード・スタイン(美術収集家)‥‥Wikipedia

 

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