元外務官僚で作家の佐藤優は、政治家で総理大臣も務めた小渕恵三についてどのように見ていたのか、佐藤優の著書『インテリジェンス人間論』から窺うことができる。
この記事の主要な登場人物
佐藤 優(さとう まさる、1960年〈昭和35年〉1月18日 – )は、日本の外交官、作家。学位は神学修士(同志社大学・1985年)。同志社大学神学部客員教授、静岡文化芸術大学招聘客員教授。
在ロシア日本国大使館三等書記官、外務省国際情報局分析第一課主任分析官、外務省大臣官房総務課課長補佐を歴任。
引用:Wikipedia
小渕 恵三(おぶち けいぞう、1937年〈昭和12年〉6月25日 – 2000年〈平成12年〉5月14日)は、日本の政治家。位階は正二位。勲等は大勲位。学位は政治学修士(早稲田大学)。
衆議院議員(12期)、総理府総務長官(第29代)、沖縄開発庁長官(第10代)、内閣官房長官(第49代)、外務大臣(第126代)、内閣総理大臣(第84代)、自由民主党幹事長、自由民主党副総裁、自由民主党総裁(第18代)などを歴任した。
引用:Wikipedia
「小渕総理の情報感覚は実に優れていた」
1998年当時、対露外交をめぐる情報について小渕恵三とかわした会話を佐藤優は『インテリジェンス人間論』で次のように描写している。
総理官邸で、小渕氏に筆者は、「エリツィンは虚血性心疾患という発表になっていますが、実際は心筋梗塞を起こしています。それから、血管がだいぶ弱っていて、アテローム(腫瘤・しゅりゅう)ができています。ここから血管が崩れることを医師団は懸念しています」と報告した。
小渕氏の目がきらりと光った。
「わかった。その話は外部にするな。重要な情報だ。ありがとう」筆者は、報告を続けた。
「川奈提案について、ロシア側の検討状況には過去二週間変化がありません」
「あんた、変化がないというのも重要な情報だ。明日、またモスクワに行って様子を探ってきてくれ」
「わかりました」小渕氏が述べた、変化がないというのも重要な情報だ、というのは、まさにインテリジェンスのプロの発想なのである。
引用:佐藤優『インテリジェンス人間論』(新潮社、2007年)65頁
こうしたことから佐藤は、政治家・小渕恵三の情報感覚について高く評価しており、またそれに関連した興味深いエピソードも披露している。
二〇〇七年六月十日、筆者は、群馬県渋川市を訪れ、陸軍中野学校第五期(五丙)の渡辺秀夫氏、中村明氏からお話をうかがった。
政治家の情報感覚について話題が及んだときに、筆者が「小渕総理の情報感覚は実に優れていた」という話をすると渡辺、中村両氏が顔を見合わせて笑った。
筆者はまずい話をしたかと思い、肩をちょっとすくめたら、中村氏がこう言った。
「そうでしょう。実は小渕総理の叔父さんの小渕岩太郎氏は陸軍中野学校で私たちの一年後輩(六丙)だったんですよ。小渕さんが情報(インテリジェンス)について、叔父さんから薫陶を受けていたのは間違いないです」筆者は「それで謎が解けました。こういう形で陸軍中野学校の伝統は生きているんですね。そういう真実を日本国民に伝えていくことが作家の使命と思います」と答えた。
引用:佐藤優『インテリジェンス人間論』(新潮社、2007年)70頁
佐藤優の著作では、以下のものはAmazonの電子書籍読み放題サービス『Kindle Unlimited』で読むことができる。(2022年11月11日閲覧時の情報)
- 佐藤優・田原総一朗の共著『人生は天国か、それとも地獄か』