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田中清玄は三島由紀夫をどう見たか。「剣も礼儀も知らん男」

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戦後右翼の大物・田中清玄は小説家の三島由紀夫をどのように見ていたのだろうか。

田中清玄の三島由紀夫観は『田中清玄自伝』から窺うことができる。

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この記事の主要な登場人物

田中清玄(右翼)・・・Wikipedia
三島由紀夫(小説家)・・・Wikipedia

自衛隊関係者を紹介

『田中清玄自伝』において田中が三島由紀夫について述べているのは、当時、平成4年10月の天皇の訪中を控えた時期に、自衛隊幹部がクーデターの可能性について語った記事が週刊誌に掲載されたことについて言及する箇所である。

この記事を読んで、僕は三島由紀夫が昔、「自衛隊へ入りたいので紹介してくれ」といってきたことがあったのを思い出した。

――そんな事があったのですか。

 うん。自衛隊への乱入事件を起こす二、三年前のことだ。評論家の村松剛が最初、引っ張ってきたんだ。僕が石油の問題でアラブとの間を行ったり来たりしていた頃で、忙しい最中だった。

初めは「剣を習いたいが、だれに教わったらいいか」と聞いてきた。それで「山岡鉄舟さんや千葉周作につながる一刀流がいいだろう」と答えてやった。

そのつぎに三島が言ってきたのは、「自衛隊に入りたいので骨を折ってくれ」ということだった。「何でだ」と聞くと、自衛隊はクーデターを起こすべきだという、今回の週刊誌に載ったようなことを、とうとうと言うんだよ。日本の解体につながる危険な思想だった。

 それで僕は、自衛隊に反乱を起こすような人間を紹介するわけにはいかんと断った。そうしたら、今度は、
「いや、あれは自分の理想であって、実行するわけじゃない。自衛隊に入ってどんな訓練をしているのか、身につけたいのだ。できるだけ危険な所がいい。空挺部隊に入りたい」と言ってきた。

 それで僕は陸上幕僚長をやり定年退職していた杉田一次さんに「三島は憲法を誤解しているし、自衛隊についても誤解しているが、よく話を聞いてやってほしい。危険な所へやって三島に命を落とさせるわけにはいかないが……」と言って、紹介してやった。

杉田さんは戦前、山下奉文がシンガポールで英将パーシバルに「イエスかノーか」と迫ったときの参謀をつとめた軍人で、反東條で有名だった。あとで杉田さんは「三島の熱情は買うけど、考え方は二・二六の連中と同じだな」と言ったね。

引用:『田中清玄自伝』(ちくま文庫、2008年)323、324頁

ここでは田中が三島を自衛隊関係者に紹介したことが語られている。

最初は三島の友人だった村松剛が引き合わせたという。剣を習いたいという三島に一刀流を勧め、また自衛隊に体験入隊をしたいと言うので、既に退官していた杉田一次を紹介したらしい。

「剣も礼儀も知らん男」

続けてインタビュアー・大須賀瑞夫の「三島由紀夫という人物をどう評価されますか」という率直な質問を受けて田中清玄はこう答えている。

 剣も礼儀も知らん男だと思ったな。自衛隊に入りたいというので、世田谷松原にあった僕の家に、毎日のように来ていたんだが、二回目だったか、稽古の帰りですので、服装は整えていませんが」とか言って、紺色の袴に稽古着を着け、太刀と竹刀を持って寄ったことがある。不愉快な感じがした。これは切り込みか果たし合いの姿ですからね。人の家を訪ねる姿ではありませんよ。

――つきあいはそれっきりですか。

 その後、彼は「盾の会」というのを作って、青年たちを集めていろいろやり出した。僕も軽井沢に講師として引っ張り出された。

 暴動が起こったら、自衛隊を中心にして立ち上がらなければならない。そのために俺を説得すると言うんだよ。毎日毎晩、彼等と激論だった。

「何を言うか。ソ連やアメリカが日本をつぶしにかかったら、貴様ら朝飯前にひねりつぶされてしまうぞ。立ち上がって、君らそれに対抗できるか」

 こう言ってこっちは一歩も引かなかった。

引用:『田中清玄自伝』(ちくま文庫、2008年)324、325頁

ここから話がアラブやテロリズムの話に逸れ、三島の最後の事件に関する批評などは言わなかったようだが、しかし最初の「剣も礼儀も知らん男だと思った」という言葉が、田中の三島由紀夫観の根幹を伝えている。

民族派・民族主義者界隈では「国士」と仰がれる三島だが、田中清玄の評価はかなり辛口だ。

『田中清玄自伝』の見どころ・読みどころ

この記事の引用文は『田中清玄自伝』からのものである。

『田中清玄自伝』の面白さは、まずはそこに出てくる人物の異常なまでの幅広さである。

ざっと有名な名前を上げるだけでも、マルクス主義・共産党関係者なら徳田球一、野坂参三、文学者なら太宰治、亀井勝一郎、三島由紀夫、林房雄、禅僧の山本玄峰、右翼の野村秋介、三上卓、四元義隆、王族や皇族関係者なら昭和天皇、オットー大公、スペインのカルロス国王、学者ならハイエク、今西錦司、アウトローでは田岡一雄、ジャック=ボーメル(フランスのギャング)、政治家ならスカルノ大統領、鄧小平、鈴木貫太郎、田中角栄、中曽根康弘、小沢一郎などなど。

これでも一部のほんのわずかな名前を挙げただけで、ともかく到底ここで挙げ切ることのできないくらい多士済々である。

その数もさることながらあまりに広い分野にまたがった人物の名が出てくるため、おそらく『田中清玄自伝』に登場する名前をすべて知っているなどと言える人はほぼいないか、いたとすれば相当な教養人だろう。

くわえて、祖先が会津藩の家老で会津者であることを誇りにしている田中は、竹を割ったような性格をしており、自ずと口吻も力強く断定的になって、有名人や多くの人にとって評価の高い人物を自分の見地から一刀両断してしまうところなど、その語り口の意外性・面白さは読む者に尽きない知的興奮を与えてくれる。

最後に言うまでもないが、その思想の是非はともかく、自分の信念と理想のために世界中を駆けて回った田中の世界観の雄大さ・スケールの大きさは、それに触れる者に強い感動を覚えさせてくれるものである。

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小説家右翼
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