山口組の二次団体組長だった後藤忠政は、自著の『憚りながら』の中で、当時の民主党政権を批判しつつ小沢一郎について触れている。
この記事の主要な登場人物:後藤忠政と小沢一郎
「権力闘争に強いが覚悟も信念も感じない」
その該当の箇所は次のようなものである。
俺は小沢さんという人は、もうちょっとマシな政治家だと思ってたんだよ。今の世の中、選挙=政権だからな。その選挙に最も強いのが小沢さんだ。(中略)
けれども、いざ政権を取った後は、「親分の田中角栄に比べたら、この人もまだまだだな」と思ったよ。角さんや、小沢さんの兄貴分だった金丸さん、竹下さんに比べて人望がなさ過ぎる。あの人たちは、与党はもちろんのこと、野党の間でも人望があったじゃないか。
それに比べて、小沢さんは「新生党」「新進党」「自由党」と党を変える度に、子分たちが離れていった。結局、引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、その度に人心が離れるから、本格的な政権が作れないんだ。
そりゃあ、確かに小沢さんの掲げてる政策は立派だよ。けどそれを実現する能力がない。人望がないから。人がついて来んから。それにさっきも言ったように、「この国のために命を懸ける、我が身を賭する」という覚悟も、信念も感じられない。(中略)
つまり小沢という政治家はしょせん政局の人、政権を作るまでの人であって、政権を担う人じゃないということだ。(中略)
ただ、今の日本の政治家の中で、最も権力闘争に強い政治家が小沢さんであることは間違いない。しかし、小沢さんはその「権力」の使い方を、履き違えてるんじゃないか。
引用:後藤忠政『憚りながら』(宝島社、2010年)226・227ページ
後藤忠政『憚りながら』の見どころ・読みどころ
この記事の引用文は後藤忠政の著書『憚りながら(はばかりながら)』からのものである。
『憚りながら』では、後藤忠政が、父や兄にいじめられていた幼少期の記憶から説き起こし、静岡での愚連隊時代、山口組組長時代など、各時期についてそれぞれ起こった出来事や印象に残ったことなどを語っている。
その面白さは暴力団組長としての後藤忠政の経歴に興味のある人にとっては無論のことだが、そこに出てくる人物の多士済々な顔触れは、仮に裏社会に興味のない人でも興味深く読めるのではないか。
裏表問わず縦横に繰り広げられる後藤の人物評は、賛否はともかくとして、なるほど例え裏社会であっても位人臣を極めた人はそれなりの一家言を持つに至るものなのだな、と思わせてくれる。
また言うまでもなく、子供から不良少年に、不良少年からチンピラに、チンピラからヤクザに、そしてヤクザ渡世を引退、という後藤忠政のヤクザ渡世を俯瞰できるこの著書は、アウトローに興味のある人なら一度は読んでみても損はないものである。